毒のある物言いをすれば、角が立つ。例えば、“大きいやつの方が強いなんて、当たり前じゃない?”などと、力自慢の大きなポケモンに言うべきではない。そう思ったとしても口には出さないのが森で生きるすべだ。しかし、ビードルは上の通りに言ってしまった。せっかく集めた食べ頃の葉っぱが、大きな奴らに力ずくで奪われたから。そして案の定、怒りを買って体当たりを食らったのだった。
“そんな顔してどうした?”
ふと頭上から無遠慮な声が降ってきた。この声は能天気なヘラクロスだろう。トレーニングが趣味で、森の中でも屈強な部類に入る。“どんな顔してるかまで分かったなら、ほっといてくれれば良いのに”
目も合わせずにビードルは答えた。視界の端でゆらゆら影が揺れる。その揺れ方で、ヘラクロスがトレーニングをしていると分かった。
“喧嘩売ってボコボコにやられたってとこか。ビードルって僕とちょっと似てるよね”、
似てない、と反論しようとして振り向いた。勝手な同情を寄せられるほど、虚しくなることはない。だが、振り返ったビードルは言葉を飲み込んでしまった。ひとことで言えば、目が眩んだ。ヘラクロスが体を動かすと、背後からまっすぐ射しこむ光も動き、まるで太陽の光を操っているかのように見えたのだ。実際はただ、バトルに向いたポケモンが鍛えている、それだけのこと。なのにひどくまぶしかった。本当は嫌でしょうがなかったんだ、口だけ達者で、なんの目標も持たず、ただ燻っているだけの自分が。思わず懇願するように尋ねる。
“どこが似てるの? キミのような分厚い前翅も、ご立派な角もないのに”
“あるよ。いちいち毒がある”
“からかうなよ”
“からかうかよ。ムカついたなら僕に向かってこい。加減せず、「いちげき」で倒すつもりで” そこまで言われたら引き下がれない。無我夢中でヘラクロスに突っ込み、その反動でビードルはぼてぼて転がった。ああ、情けない。“ほらね。あるじゃないか、立派な角が。キミの角には毒がある”
ヘラクロスは分厚い前翅に残る跡を指差した。ビードルはぽかんとしている。そう、ビードルには自分の頭の上に付いている毒針が見えていなかったのだ。今はかすった跡が残るくらいだが、この毒針は鍛えあげれば、いちげきで相手を圧倒する立派な武器になるという。
ヘラクロスは「かた」があると続けた。ヘラクロスよりもずっと強い師匠に教えてもらうものらしい。ツノが似ている僕らなら、同じ「かた」を習得できるはずだが、どうする、と。ビードルは即答で修行したいと答えた。心から強くなりたいと思ったのは初めてだった。
毒のある角ならば、役に立つ。いつか、“大きいやつの方が強いなんて思ってたの?” などと、力自慢の大きなポケモンにも、毒っ気たっぷりのいちげきをお見舞い出来るだろうか。
“それまで一緒に鍛えてよ、先輩!”ビードルがそう言うと、じゃあ腹筋からだな、とヘラクロスはビードルがつかまれそうな枝を指し、嬉しそうに前翅をふるわせた。森には午後の光がまっすぐ射し込んで、二匹を照らしている。