チームワーク。仲間と連携を取り、各々の強みを活かし、目標の達成に向かって励むこと。異なる意見も聞き入れる協調性や、周りに合わせてやり方を変える柔軟性が求められる。「れんげき」の戦い方を習得するためには必須であり、トレーナーはポケモンたちに大真面目に説明した。だが、ポケモンたちはピンと来ていない様子。身振り手振りを加えてもういちど伝えてみる。「例えば…、ニューラだけで攻撃を命中させるのが難しいターゲットがいたら?マーイーカがターゲットを浮遊させて、狙いやすくすれば良いでしょう。そういう戦い方をするのがチームワーク。今の私たちには、それが出来ると思う?」
つまり、チームワークがないと言いたいのだ。それはポケモンたちにも伝わった。しかし、トレーナーがきずぐすりの買い出しに行くとキャンプを離れて一時間、待っているポケモンたちには協調性どころか会話ひとつなかった。ニューラは爪を研いでマーイーカに勝負を仕掛けようと好戦的な笑みを浮かべる。対するマーイーカは雪にへばりついて落ち込んでおり、全然戦うモードじゃない。そんな2匹を横目で見つつ、ユキノオーは余っているカレーの材料を物色している。皆、悪気はなく、自分に素直なだけなのだが。
ニューラがしびれを切らし、マーイーカにいつまで落ち込んでいるつもりだと尋ねた。マーイーカは“あの人はいつも頑張ってくれてるのに、自分たちは何か返せてるのかな”と、落ち込みすぎてもはや雪にめりこんでいる。ニューラは鋭く指摘する。“ネガティブすぎ。極端なんだよ。これ以上がっかりさせたくないなら、今すべきなのは特訓。あいつがいないうちにこっそり特訓すりゃ良い。明らかだろ”それはまっとうな意見ではあるが、マーイーカはもっと直接的にトレーナーのために何かしたかった。2匹の意見はすれちがう。
“わかるけど、そんなふうに言わなくても…”
“マーイーカはバトルの時もフラフラしてて自信ないよな”
“ニューラだって力任せでコントロール良くないし”
“まあまあ…とりあえず食事にしない?(物色を続けるユキノオー)”
どうにも埒が明かなくなって、これではダメだと思ったその時、ポケモンたちは言われたことを思い出した。異なる意見も聞き入れる協調性や、周りに合わせてやり方を変える柔軟性…。
しばらくしてキャンプサイトに足音が響く。買い物袋をさげてトレーナーが帰ってきた。そして、想定外のサプライズに言葉を失った。
マーイーカがきのみを浮遊させて、ニューラが狙いを定める。鋭い爪が空中で曲線を描くと、きのみはまっぷたつに割れた。それを見ていたユキノオーは、待ってましたとばかりにカゴできのみを受け止める。マーイーカは頭には鍋を乗せ、フラフラしないようにバランスを取る鍛錬も行なっている。
ポケモンたちは、カレーを作りながら特訓していたのだ。彼らなりにチームワークを解釈した結果、こういう結論に至ったらしい。見よう見まねでカレー作りに励むポケモンたちの姿に、トレーナーは買い物袋をおろして目を細める。
「もう…またカレー?昨日作ったばっかだから、違う食べもの買ってきたとこだったのに」
そう言いつつも、顔には嬉しさが隠しきれていなかった。