迷子になって泣いていたメッソンに手を差し伸べたのは、群れのボスであるナゲツケサルだった。お腹を空かせた彼に、ナゲツケサルは群れで蓄えていた木の実を分けてくれたのだ。彼らはなわばりのうち、使われていない小さなねぐらをメッソンに明け渡してくれた。
群れを成して生活するナゲツケサルたちは、いつも手分けをして木の実を集め、何かあれば連携をとって戦った。逃げ惑ってばかりのメッソンは、いつも自分のねぐらにこもってばかりであったが、ナゲツケサルたちはそれでも彼を見捨てることはなかった。
少しくらいは、ナゲツケサルの役に立ちたい……そう思ってみずでっぽうで木の実を打ち落とそうとした。だが、ワザの威力もまだ弱く、取れたのは小さな木の実だけであった。それでもせめて、と、ボスのナゲツケサルの寝床にメッソンはこっそり小さな木の実を置いておいた。
翌朝、眠りについていたメッソンは何者かの視線を感じてはっと目を開いた。ボスのナゲツケサルが、メッソンのねぐらにどしんと胡坐をかいていたのだ。
昨日の贈り物が気に入らなかったのかもと、メッソンはぎゅっと目を閉じた。だが、当のボスは声をかけることもなく、メッソンのねぐらからのっそのっそと出て行ってしまう。一体何をしに来たのか……メッソンが彼の背中をおずおずと見つめていると、ぐるりとボスは向きなおってメッソンを見つめた。ついてこい、ということなのだ。再び緊張しながらも、逆らえばどうなるか……滲む涙をこぼさぬように、メッソンはボスに一歩近づいた。
そのまま2匹でしばらく歩き、森の中でも、ぽっかりと空が丸く見上げられる場所へとたどりつく。ボスはその中心に座り、メッソンもその前にびくびくと座った。
ボスの手が、ゆっくりと上がる。思わずメッソンの体がこわばる。だが、ボスの手はそのまま不思議な弧を描いた。いくつかの振りを見せた後、ボスはじっとまたメッソンを見つめる。真似をしろということだろうか。
メッソンはボスと同じように腕を動かした。弧を描き、前へ押し出す。ボスはさらにその動きを早くしてメッソンに真似をさせる。そう、これはナゲツケサルたちが群れで連携して戦う際の、木の実を投げ攻防する、いわゆるスローイングのフォームだ。おぼつかないメッソンの動きに呆れることなく、ボスは何度もメッソンに型を見せてくれる。いつの間にか日はとっぷりと暮れていった。
やがて、実際に木や仲間のナゲツケサルに教えてもらった投げ方を試した日、彼はジメレオンへと進化した。ボスが彼ばかり構うことに疑問を抱いていた仲間たちも、進化して初めてのスローイングを見て、喜びに舞った。
注目を集めていることに戸惑い、ボスを見上げると、彼は少しだけ、微笑んだ。ジメレオンが、ボスの笑った顔を見たのは、これが初めてであった。
正式にナゲツケサルの仲間となったジメレオンは、これまで以上に木の実を集め、群れを守るためによその群れを追い払う陣形にも加わった。
初めてスローイングを成功させたあの日以来、ボスは毎日の習慣であった稽古にも来ず、笑顔も見せなくなった。それでも、ジメレオンには分かっていた。時折自分を見つめている彼の瞳が、とても温かいことに。
遠くから、何者かが近づく音がした。さあ、我らの力を見せよと咆哮するボスの声の方向へ、ジメレオンは駆け出す。自分たちの、家族のために。