澄んだ空気の中、夜空には星がキラキラと瞬いていた。ゆっくり、ゆっくりと歩くブーバーの足元の雪が、じゅわりと一瞬のうちに昇華していく。吐く息も熱く、周囲の雪を水蒸気に変え、あたりには真っ白な水蒸気が立ち込める。
いつもなら近くの火山の洞穴の深くで縮こまっている時期だ。だが、入口に見える美しい星の輝きにつられて、ブーバーは外に出てみることにした。初めて足を踏み入れる銀世界に、ブーバーは思わず胸を高鳴らせる。しかし、凍えるような寒さは、ブーバーの身体にうずまく炎を少しだけ弱らせた。
昼よりも、空がシンと澄んでいる。夏のころはただ眩しかった月がはっきりとクレーターの模様を見せていたり、星がこれまで見てきた並び方と違うことにも、ブーバーは驚いた。本当なら、普段は出歩かないこの季節の森を楽しみたいが……寒さには弱い性質のせいで、動きが少し鈍る。
いったい、何がこれほど辺り一帯を冷たくしているんだろう。風だろうか。空だろうか。それとも――。ブーバーの口元で、白い雪が一瞬で昇華する。
この……白い塊のせいなのか。
ブーバーにはそれが雪だとは、分からなかった。足元にも、空にもあふれる白い塊。夏には観測できないのは、これだ。ブーバーはじっとそれを観察してみた。自分に近づくと、さあっと消えていく。後ろを振り返ると、ブーバーの歩いた場所にだけ、白いものはなくなっている。つまりこれは――熱に弱いのだ。
この白い塊さえ無ければ、こんな寒さも少しはましになるだろう。炎を吐けば……。だが、あまり強くやりすぎると、木々や草まで燃えてしまいそうだ。
ブーバーは、小さく息を吸った。いつものように、肺いっぱいに空気をため込んで出す炎では強すぎる。リボンのように、細い炎で……。ブーバーは集中して口をすぼめた。ふぅ……。ブーバーの口から、真っ赤なリボンのような炎が飛んでいく。その炎は踊るように冷たい空気の間を縫って、じわり、じわりと雪原の表面を滑っていく。雪はその固さをほどいて玉のようなしずくとなり、月明かりを反射してきらめく。その輝きで、少し、寒さが和らいだような気がした。
この美しい夜空を楽しむために、もう少しだけ、この辺りを居心地よい場所にしてみよう。ブーバーは自分の周りの雪を、少しずつ、少しずつ溶かし始めた。加減をして吐いた炎は雪を水に変え、玉になった水滴が冬の凍てつく空気で凍って、粒になっていく。森の木々はまるでイルミネーションをほどこされたように、美しく月の光を反射して輝きだした。
それはまるで、夜空の星が大地に降り注いできたような、幻想的な風景だった。ブーバーはそっと地面に腰掛け、美しい夜空と、光る氷の粒をながめた。寒い冬は苦手でも、こんな景色が見られるのなら……寒さも、少しだけ好きになれそうだ。