「この冬は一段と冷え込むでしょう」、そんなニュースが流れはじめたことを公園に住む野生のポケモンたちは知らない。あたたかい時期にはトレーナーがあふれ、バトルのフィールドとなっていたこの公園も、今は凍える風が吹きぬけるだけ…に見える。しかし実のところ、公園の端の大きな木では、別のバトルが繰り広げられていた。
“葉っぱって全然あったかくないよね”
“でも砂はおしゃれじゃないよね”
“こっちはいつでも砂でポカポカだけどね”
“こっちははっぱカッター飛ばせるし。強いし”
“うわ、ちょっと!それはっぱカッターって言わない!”
葉っぱを着込んだミノムッチ、人呼んで「くさきのミノ」が遠心力をつけてからだを揺らして、砂や岩をまとったミノムッチ、通称「すなちのミノ」にたいあたりをお見舞いした。自分でははっぱカッターと言い張ったが、葉をまとってぶつかっただけだった。
大きな木の枝の指定席で、3匹のミノムッチがどのミノが一番かバトル中である。争いの発端は、くさきのミノとすなちのミノの陣取っている場所が近すぎたことだった。些細な言い争いが、いつの間にかミノの品評にまで発展していた。ミノムッチにとってミノは生活必需品だ。冬のミノは防寒性が大事だが、おしゃれを気にするやつだっている。すなちのミノとくさきのミノはお互い一番の座を譲らない。
そんな中、指定席の端っこにぶら下がるミノムッチだけは何も言わず、バトルのゆくえを眺めていた。その理由はまとっているミノの呼び名にある。“ねえ、さっきから黙ってるけどそのミノはどうなの?”と、くさきのミノに尋ねられ、そのミノムッチは口をとがらせた。
“ゴミだよ”
そのミノムッチは、ヒトがゴミ箱に捨てていったゴミを拾ってミノにしていた。葉っぱでミノを作ろうとしていたのだが、途中で北風に吹き飛ばされてしまい、急ごしらえしたものだった。ヒトがそれを「ゴミ」と呼んでいることも、捨てていった一部始終も、陰から見ていた。その扱い方から価値のない不用品なのだと分かったが、それでも何かをまとわなければ凍えてしまいそうだった。
“だから、葉っぱよりおしゃれでもないし、砂よりあったかいわけがない。わかったでしょう?これ以上説明する必要ある?”
くさきのミノも、すなちのミノも、黙り込んでしまった。友だちを悲しい気分にさせるつもりなんてなかった。さっきまでのふざけた空気がすっと冷えていく。吹き抜ける北風がより一層冷たく感じた。くさきのミノはたまらずからだを震わせる。やっぱり冬は温かいミノに限るかもと思い直しつつ、ゴミのミノをちらりと見る。あったかいわけがないと言っていたのに、見た感じ全く寒くなさそうだ。
“それ、もしかしてあったかいんじゃない?”
くさきのミノがゴミのミノに近づく。触れてみると、そのミノは見かけよりもふわふわしていた。砂より軽いのに、風を受けても飛んでいくこともない。おしゃれなくさきのミノはピンと来て、“うそでしょ……!”と息をのんだ。
そのゴミのミノは、実はニットで出来ていた。くさきのミノが知るうちでは一番あたたかくて軽くて、そしてよく見れば鮮やかなピンクの生地がおしゃれだ。飛ばされたわけでも、攻撃を受けて壊されたわけでもないのに、ヒトはなぜこんな価値あるお宝を手放したりするのか理解できないが、これは勝負あった。こうして今日のバトルは人呼んで「ゴミのミノ」の勝ちとなったのだった。それからしばらくミノムッチたちの間で“今日のヒトはお宝捨てるかな?”と観察するのが流行ったことを、公園を散歩する人間たちはもちろん知らない。