何も遮るものもなく、暖かな陽ざしが降り注ぐ広大な野原には、今日も何匹ものミツハニーが飛び交っている。100匹のミツハニーに対して、ビークインが1匹。ここは彼らのなわばりだった。色とりどりの花が群生しており、大好物のミツも集めやすい。けれどその分、迷ってしまうミツハニーもいるようで……。
「今日の気分は赤いお花かなあ」「この前食べた青いお花のミツの方が美味しかったよ」「もう、ビークイン様は紫のお花のミツが欲しいって言ってたの、忘れちゃったの?」ミツハニーの3つの顔は、それぞれに好みが違う様子。あっちに飛ぼう、こっちに行くのと、花にたどりつく前に野原の上を右往左往。また揉めているうちに、夕方になっちゃうじゃない。一番下の顔はむすっと口を尖らせた。
100匹いるミツハニーの中で、ミツを集める量が一番少ないのは、いつも自分たちだ。一番下の顔は責任感がいっぱいで、他のミツハニーに負けじと気合十分なのに、上の2つの顔の子たちはいつも、自分たちの好きな味ばかりを欲しがってしまう。
今日も揉めるミツハニーを見て、仲間たちは、呆れながら笑った。またあいつら、喧嘩してらあ。ビークイン様が困ってたぞ~と、からかう様に羽の音をぶんぶんと鳴らしてみせる。
そんなことをされたら、上の2つの顔だって黙ってはいられない。今日はたくさんミツを集めて、皆の前でビークイン様に褒めてもらうんだ!この群れで一番ミツを取ったミツハニーは、ビークイン様を中心に花畑で踊る真夜中のダンスパーティで、ビークイン様とペアになって踊れる決まりだ。今夜、ビークイン様と踊れたら、いっつもビリだって馬鹿にしてくる仲間たちだって見直してくれるはず! ミツハニーは3つの顔を見あって、うん、とうなずいた。そうと決まれば、さっそくミツをたくさん運ばなくちゃ!
「じゃあ、赤い花を!」「青い花だってば!」「ビークイン様に喜んでもらうなら、紫の花じゃなきゃダメ!」やっぱり、一筋縄にはいかない3つの顔たち。そうだ、それなら3つとも、平等に回っていけばいいんじゃない?と、赤い花を提案する上の顔の子が言った。それはいいアイデアだね!と二人はうんうん頷いた。
赤い花、青い花、紫の花、赤い花、青い花、紫の花……。ミツハニーはそれぞれ、お気に入りのミツをためていく。花によって少しずつ違うミツがミツハニーの身体にもぺとぺとついて、カラフルに彩られていく。いつも皆で同じミツを集める仲間たちは、色々なミツを体につけたミツハニーを見て驚いた。僕たちも真似してみよう、そしたらいつもよりたくさんのミツが集められるかも。ちゃっかり仲間たちまで、ミツハニーのやり方を真似して色々な花を回っていく。
その夜、ビークインのもとには色とりどりの花のミツが集められていた。これほど多くの種類が集まったのは初めてだと、ビークインは群れを驚いた顔で見上げる。1匹のミツハニーの影響なのだと分かると、ビークインはそのきっかけとなったミツハニーを呼び寄せた。集めた量が一番多いわけじゃなかったけれど、あなたのアイディアがみんなを変えた。今日の一番はあなただと、ビークインはミツハニーをダンスに誘ってくれる。
ミツハニーは、初めてビークインと花畑の中心でダンスをした。周囲で楽しそうに飛び回る仲間たちと、星の輝きに見とれながら、ミツハニーはビークインの周りをくるくると回って見せた。いつかまたこの場所で夢のような時間を過ごすため、ミツハニーは明日からもがんばって働こうと誓うのだった。