ほしい。ほしい。あのきらめきがほしい。夜空に輝く無数のきらめき——いわゆる星は、手の届かない遠くの場所にあるとホシガリスは知っている。そして、この森には手を伸ばしたら手に入れられる「星」があることも。ホシガリスはきのみを手にとり、うっとりと眺める。きのみの実った森は満点の星空よりも綺麗で、永遠に見上げていられた。でも永遠なんてない。誰かに取られる前に、取らなければならないのがこの世界の常だ。ホシガリスはひとりつぶやく。
“ほしいものがあるなら、どうやったって手に入れなくっちゃね!”
貪欲は正義。今日もきのみが頬いっぱい、尻尾いっぱい、もはや尻尾からこぼれているけど気にしない。曲がり道だらけの森でも、ホシガリスはご機嫌に進む。きのみを溜めておく洞穴まで、角を曲がってあと少し。
そこで、はたと足を止めた。今まで見たことのないきのみが目に飛び込んできたからだ。それはまるで一等星のように輝いて見えた。このきのみは誰もが欲しがるに違いないと思い、ホシガリスは迷わずその実を狩った。からいようなあまいような香りは謎めいていて、手に取ると余計に魅力的だ。それでいて、中身のぎっしり詰まった実からは、得体の知れないエネルギーを感じる。ホシガリスはその実をすぐ食べず、隠れ家の奥の奥にそっと飾った。夜になると、小さな洞穴で「星」を眺めた。それはそれは綺麗で、暗い洞穴なのに明るく照らされているようだった。しかし、それが「星」と過ごす最初で最後の夜となった。
翌朝、ホシガリスが水浴びから帰ってくると、「星」は跡形もなく消えていた。ホシガリスは慌てて辺りを見渡す。誰かに奪われたに違いないが、それにしては足跡がどこにも見当たらない。そんなに長い間空けていなかったから、まだ奪った者は遠くまで行っていないはずなのだが。ホシガリスは家を出て、森の小道を走る。落ち着いて探せば、どこかに証拠があるはずだ。夢中で駆け、角をいくつか曲がったところで、向こうからゆらりと何者かがやって来た。ホシガリスはほぼ反射的に尋ねる。
“ここらできのみを持ってる誰か、見なかった?”
悠然と歩いてきたのは、散歩中のクスネだった。
“さあ…。どんなきのみ?”
“ほら、あのー、暗くなるとあそこで光ってるやつみたいなきのみ!”
ホシガリスは空を指差す。奇妙な回答にクスネは少し驚いたような顔をして、それからこう言った。
“もしかしてあなた、きのみじゃなくて、あそこから落ちてきた本物を狩ったんじゃない?”
ホシガリスは、木になっていたからきのみだと主張するが、クスネは落ちてきた流れ星だという。そして、星は昼間は見えない。朝方突然消えてしまったのは星だったから、ということらしい。
“それでも、ほしい。ほしいんだ。あのきらめきが、もう一度。きっとどこかに逃げてるだけだから、捕まえてみせるよ”
ホシガリスが言うと、クスネはくすっと微笑んで答える。
“ふふ、ひとりじめするつもり?森のきのみも、あそこで光ってるものも、みんなのものなのよ。でも…、あなたの言うことも正しいわ。ほしいものがあるなら、どうやったって手に入れなくっちゃね!”
ホシガリスは“そうそう、そうだよね!”というと、クスネにお礼を言ってまた走り出す。しばらく一心不乱に走ったところで、はたと気がついた。あれ、昨日ひとりごとで似たようなことを言ったような。ホシガリスは立ち止まって振り返るが、森の道は曲がり角が多く、見通しが悪い。背後では木々がざわめくだけだ。だから、遥か後ろで「星」をくわえたクスネが悠然と歩いているのにも気づかなかった。