山頂付近の岩場の調査に向かった仲間たちが、慌ててキャンプに逃げ帰って来たのが昨日の事。炎を発するポケモンが、調査隊と向き合う形となったそうだ。これまでに山頂への道でそのポケモンに遭遇した記録はなく、調査隊たちは苦戦を強いられ、引き返してきた。この山の調査は、村で使用する資材を手に入れるためにも必須である。そこで隊長は、件のポケモンへの対策を講じるために、生態調査を行うよう命じた。
そのポケモンの特徴は、橙色の体躯に縞模様、モコモコとしたたてがみに覆われ、こちらに気づいているのか判別がし辛いのだと言う。とにかく、こちらを振り返った瞬間に身を隠し、観察をすること。万が一連れているポケモンがやけどをした時に使える様、チーゴのみが大量に支給された。
昨日の調査経路を確認しつつ、茂みや木陰を利用しながら、ようやく岩場へたどり着いた。まっすぐ立つにはかなりの筋力がいる、急こう配の岩肌が目の前に広がる。周囲に茂みは減り、身を隠す場所も減ってきた。
どうにか岩肌の切れ目に足を引っかけつつ、しゃがめば身を隠せる岩に隠れ、山頂に向け目を凝らす。灰色と緑の広がる場所のため、橙色のポケモンを見つけるのはそう難しくはなかった。
こちらから確認できるのは同じくらいの大きさの二体のみ。ふわふわのたてがみはまるで雲のようにくるりと毛先が丸まっている。あれが、調査隊を襲ったポケモン……?一見、可愛らしいポケモンにしか見えない。
彼らは岩肌を器用に前足で掴んで右へ左へ歩きつつ、時折立ち止まっては注意深く身をかがめて威嚇するような態勢になる。確認も威嚇も、二匹のポケモンにより死角なく行われている。なるほど、小さいけれど、警戒心はかなり強い様だ。この先は、彼らの縄張りということなのだろうか。
身を隠している岩の向こう、斜面の中腹には、もとは灰色の岩が黒く焼け焦げ、まるで影を落としたかのようなあとがあった。きっとあそこで調査隊はポケモンに襲われたのだろう。ここを人間がふらつけば、彼らはすぐにこちらを襲ってきかねないということだ。
観察に夢中になり、身を乗り出していると、足元の小石を踏んでしまったことに気づいた。まずい、と顔を上げたのもつかの間、近くにいた方のポケモンがこちらに向けて身構えた。こんな些細な音でも察知するのか。ポケモンは身を低くしながら、鼻をひくひくと動かしこちらに進んでくる。まずい、どうにかして気をそらさねば見つかってしまう。
調査隊員は慌ててチーゴのみを取り出し投げた――が、飛んでいく物体の影が球体であることに気づき、身体が一気に冷たくなった。しまった、あれはモンスターボールだった!
モンスターボールはポケモンの背中に命中し、驚いたポケモンが大きな声を上げる。まずい、逃げないと。慌てて坂道を下ろうと体勢を立て直したが、草履が岩肌の切れ目に引っ掛かり、思い切り後ろに転倒してしまった。鞄にしまっていたチーゴのみはふもとに向かって勢いよく転がっていく。ポケモンの足音が聞こえてくる。まずい、このままじゃ――。
ぎゅっと目を瞑ると、山の上の方角から、先ほどよりも低く伸びるような鳴き声が響いた。ずきずきと傷む身体をなんとか翻して振り返ると、先ほどのポケモンたちも、自分と同じように山の上を見上げている。彼らは顔を見合わせて頷きあい、山の上に向かって走り出した。
何とか難を逃れ、息を切しながらようやくたどり着いたキャンプにて、すぐに発見したポケモンの報告を行った。炎を発する小さな門番。そして、彼らに号令を発するようなあの大きな鳴き声……。山頂の調査は、まだまだ苦戦しそうだ。