ウィロー博士から受けたタスクをこなすため森にやってくると、足元を動く影があった。地面を歩くイトマルを見たのは、これが初めてだった。林の入口、樹の根のあたりにつかまり、イトマルは上に登ろうとしているように見えた。この樹に巣を作ろうとしているのだろうか。いつもは巣でじっと獲物を待ち構えている姿を見ることが多いイトマルが、どうやって巣を張るのかが見てみたくて、その子の近くにしゃがんでしばらく観察していた。けれど、どうやらこのイトマルは、木登りがあまり得意ではないようだ。足をなんとか樹の幹の凹凸に引っかけて途中まで登っていくけれど、しばらくすると自重に耐えられなくなって、コロコロと地面まで落ちてしまう。諦めない様子に応援したくなる気持ちはかきたてられるけど、これじゃあ日が暮れてしまいそうだった。ちょっとくらいなら、手伝ってあげてもいいかな?と、樹の幹にしがみつくイトマルのお尻に手を添えてやると、予想よりもずっしりと手にかかる重さを感じた。慌ててもう一方の手も差し出して、両手でお尻を支えてみる。イトマルはちょっと驚いたようにこちらを振り返りはしたものの、再び一所懸命によじ登り始めた。落ちそうになる度、手の上に落ちながらも、再び幹にしがみついて、なんとか地面から一番近い枝までたどり着く。
よかった、これで巣が張れるだろう。そう思ってイトマルを見てみると、そちらもようやくたどり着いて嬉しかったのか、こちらに向かって足をふるふると振ってみせた。なんだか可愛らしいその動きに、よかったね、と声を掛けると、イトマルはなぜかこちらにめがけて飛んできた! 慌てて両手でキャッチするけれど、飛び降りた衝撃も加わって、支えきれずに一緒になって地面に転がってしまった。危なかったよ、と少し叱ってみるけれど、よく分からないのか、イトマルは満足げに足をパタパタさせてみせた。その愛らしい動きに、呆れつつも見とれてしまう。
「そんな調子じゃ、いつまで経っても巣が作れないよ?」
こちらがそう忠告するけれど、イトマルは首をかしげるだけだ。このまま枝にもう一度乗せてあげても、なんだか心配で放っておけない。
「もしよかったら……うちに巣を張る?そしたら落ちちゃっても、また助けてあげられるかもしれないし」
そう言ってモンスターボールを見せると、イトマルはぴょんとボールに飛びついた。勢い余って、イトマルのお腹にモンスターボールのボタンがぐいっと押し込まれると、吸い込まれる様にボールの中に入っていった。やっぱり、ちょっと変わった子だ。それでも、こんなに懐いてくれたのが嬉しくて、急いで家へと連れて帰った。
「ほら、この玄関の辺りなら、風も当たらないし巣が作りやすいよ」
そう言ってモンスターボールからイトマルを出してやる。おや?なんだか様子がおかしい。イトマルの顔が、なんだかふにゃふにゃと、間の抜けたような顔になっているではないか。その時だ、イトマルの身体は、みるみるうちに輪郭をなくし、紫いろでへちゃっとしたメタモンに変化した。
「ええっ、イトマルじゃなかったの?」
こちらの驚いた顔を見て、メタモンは得意げに胸を張った。木登りが苦手なのは、もともとイトマルじゃなかったからか……。
「じゃあ、玄関じゃなくて、お家の中の方がいいかな?」
ドアを開けて見せると、メタモンは嬉しそうに飛び込んでいった。おっちょこちょいなメタモンとの暮らしは、これからもちょっと、苦労しそうだ。