誰もが寝静まった真夜中のキャンプ地にて、ひらりと舞い飛ぶ影があったら、それはカゲボウズかもしれない。
お腹を空かせたカゲボウズが大きな舌をぺろりと出しながら探し回っているのは、恨みや妬みの感情が満ち満ちている人間のテントだ。ピンと立ったツノで人間の気持ちをキャッチすることができると言われているカゲボウズには誰が自分の大好物の感情を持っているかすぐに分かる。
やがて、カゲボウズはひときわいい具合のテントを見つけた。耳をそばだててみると、なんだかうんうんと唸っているのが聞こえて来た。大当たり!大きく息を吸うようにそれを丸呑みすると、ペロリと舌なめずりをした。さて、お次はどのテントに行こうかな?カゲボウズは次の獲物を探して、ごきげんにくるくるとキャンプ地を回っていく。ああ、この辺りはごちそうだらけで嬉しいや。
翌朝、はっと目覚めたトレーナーは、なんだか気持ちが軽くなっていることに気づいた。昨日、あれだけモヤモヤしていたのに……。テントを出ると、昨日喧嘩をした仲間が朝食を作っている。
「お、おはよう……その、昨日はごめんね?」
「こ、こちらこそ……昨日は言いすぎたよ。君が羨ましくて、ついつらく当たっちゃったんだ」
じめっとした森の中、二人が仲直りしたことも知らず、お腹がいっぱいになったカゲボウズはすやすやと気持ちよさそうに眠っていた。