ねむけざましでも摂ったみたいに眠れない夜だった。私はベッドから窓の外を眺め、満月が欠けるまで眠れなかったら、とか、つまらないことを考えていたと思う。夜更け過ぎ、庭にキュワワーが現れた。漂う姿は、満月が花飾りをしたみたいだった。キュワワーはどこかへ去っていく。私はベッドを抜け出していた。あまいかおりに誘われて、そんな言い訳が浮かんでは消えた。
キュワワーを追い、着いたのは鉱山だ。四方八方で石がぎらぎら輝き、暗闇なのに奇妙に明るい。とびきり光る鉱石を見つめると、それはヤミラミの瞳だった。ハッと目を逸らした。このままだと魂を奪われてしまう。警告音のように胸が鳴る。ここにいてはいけない。私は走り出した。すると、バシャバシャ、遠くで水を弾く羽音がした。
一心不乱に羽音のした方へ駆ける。夜が明けてきて、東の空が白む。遠くでウッウが羽を広げているのが見えた。川だ、家の近くの川だ。弾む息で近付くと、ウッウは羽ばたいた。冷たい水が跳ねて朝日を反射し、思わず目をつむる。
目を開けると、私はベッドの上にいた。だから、この夜のことはただの夢と笑われて終わり。でも、誰にでもあるでしょう?そんな夜のひとつやふたつ。