ホエルオーが海中をゆく。いちばん大きなそのポケモンは、優雅に直進するだけで周りの水流を巻き込んでいく。背後から迫る巨大なシルエットと水圧に、近くを泳いでいたヨワシの列がぱっくり割れた。ふなのりが見たら、ホエルオーがヨワシの群れを追いかけたとでも思うだろう。海では珍しくない光景だ。
しかし、このホエルオーは違う。ヨワシと一緒に泳ぎたかっただけだ。ヨワシの群れが羨ましかったのだ。いちばん大きいというのは孤独でもある。どこまで行っても真っ暗で果てがない海を、ヨワシのように皆で一緒に泳げたら楽しいのに、とずっと思っていた。ホエルオーは口を開けて、逃げないでくれと伝えようとした。だが、もう遅い。ヨワシは散り散りになっていく。伝えたいことが伝わらない現実を前に、ホエルオーは潮水よりもしょっぱい思いになった。
でも、ホエルオーは知らない。ヨワシたちだって羨ましかったのだ。小さなヨワシたちは、ホエルオーのように大きく逞しく海で生きられたら、とずっと思っていたのかもしれない。そして、ホエルオーを間近で見るうちに、だんだん気づき始めている。ひとりひとりは小さくても、皆で力を合わせれば大きくなれるのではないかということに。おびえず、ひるまず、堂々とホエルオーの隣で一緒に泳ぐことだって、決して夢ではないことに。
これは、この海のヨワシたちが「むれたすがた」になる、少し前のお話。