切り立った山に囲まれた泉は、夜にもかかわらずキラキラと水面を揺らしていた。いつもより大きく見える月は、今にも地面に触れてしまいそうなほど大きく見える。辺りは満月のまばゆい光に照らされ、夜中にもかかわらず地形のすみずみまでよく見渡せた。せっかくこんな素敵な景色が見えるんだ。今日はこの辺りで泊まるのもいいかもしれない。そう思ってテントを張っていると、どこからか愛らしい鳴き声が聞こえてきた。ポケモンが近づいているのかもしれない。咄嗟に草むらに身を隠すと、ピッピたちが歩いてきたのが見えた。
列をなすピッピたちの背中の翼は、月明かりを受けて淡く光っていた。その光はまるで星屑のようにも見える。ピッピたちがキラキラ輝く泉に近づくと、彼らの身体はふわりと宙に浮き始める。中にはバランスが取れなくてくるくると回ってしまうピッピもいた。くるくると楽しそうに回りながら、ようやく体勢を整えると、ピッピたちは頭上にある大きな月を一斉に見上げ、両腕を天へと掲げる。
ピッ、ピッ、という声にあわせて、ピッピは腕を左右に振る。その動きを見つめていると、胸の奥底からじわりと温かいなにかがのぼってきて、自分まで一緒に宙を舞っているような感覚におちいった。こんなにも美しいものが、この世にあったなんて。こんな光景を見れば、きっと誰もがみんな、ほんの少しだけ、幸せな気持ちに浸ることができるだろう。満月の下で繰り広げられる幻想的なこの景色を、他の人にも見てもらえたら――。
空が白んでいくまで、ピッピのダンスは続いた。ピッピたちの翼の光も落ち着き、浮かんでいた身体もそっと地面に降ろされる。朝日に照らされる中、少し疲れた様子のピッピたちが、列をなして泉を離れていく。おやすみ、ピッピ、またいつか。満月の夜の幸せな時間を、一緒に過ごせますように。