……寒い。
身体を芯から凍えさせる容赦のない冷気に、もう、意識も失いそうだ。
道に迷い、洞窟に逃げ込んだは良いものの、ここは真冬の雪山。
すぐに救助がくるなんてこともないだろう。
はぁ、と口から溢れた真っ白な息を見ながら、ふと、ここにやってきた理由を思い出していた。
空気に漂う水蒸気が、寒さによって結晶となり、それが光に反射して幻想的な光景を作ることがある。風に舞うそれは、まるでダイヤのように美しく輝き、見る者の心を奪うという。
そんな景色を一目見たいと、勇んで雪山に登ったは良いものの、この体たらくだ。
陽が昇るころには、自分は氷漬けになっているだろう。
あぁ、バカなことをした。どうせなら、最後にせめて、その美しさを瞳に収めたかった。
瞼を閉じ、静寂に身を委ねる。すると、頰にポツ、ポツと、柔らかな刺激を感じた。
雪か、それともあられだろうか。いいや、もっとしなやかな感触だ。
ピアノの鍵盤をはじくような、優しく何かを囁くような……。
心を満たしていた孤独感が、少しずつ和らいでいく。もう、終わりの時が近いのかもしれない。
冷気の向こうに、僅かな息遣いを感じながら、ついにつなぎとめていた意識を手放した。
目が覚めると、そこは山小屋のベッドの上だった。
どうやら自分は、運良く救助されたらしい。
「今朝、この冬で一番綺麗なダイヤモンドダストが見えたんですよ。それを辿った先に、あなたがいた。きっと、あなたのことを誰かに気づかせようとしたんでしょうね」
ふと窓の向こうに目をやると、晴れ渡った雪原に佇む、小さなポケモンと目が合った。
柔らかな光の中、澄んだ冷気を纏ったその姿に、堪らず感嘆が漏れる。
「あぁ、これが」
誰もが心を奪われるのも、納得だ。
「次は、ちゃんと見においで」
窓越しに広がる幻想的な世界に、そんなことを言われたような気がした。