全部の絵の具を乱暴に混ぜたような、鈍く濁った空だった。
一人になりたい僕にはお似合いだ。人気のない丘の上で、僕はポツンと膝を抱えていた。もう誰にも会いたくないんだ。そう思っていたのに──、
「……え!?」
思わず素っ頓狂な声が漏れた。いつの間にかポケモンが空を覆っていた。あれはイオルブだ。UFOみたいなキョダイマックスのすがた。それだけでも驚きなのに、……イオルブの下に佇んでいる奇妙な奴は一体何なんだ?
流線形のフォルム。不可思議なオーラ。まるで宇宙人みたいだ。そういえば噂を聞いたことがある。宇宙と関係があるポケモンがいるって。名前は確か、デオキシス?
僕の一人タイムは完全に打ち崩された。人が来るくらいならまだ我慢できた。でも、よりにもよってあんな存在感のかたまりみたいな奴が現れるかね?
早くどこかに行ってほしかった。でもデオキシスは「祖父の代からここに住んでいるんで」とでも言いたげなすまし顔で居座っていた。無機質で表情が読み辛いから、見方によっては僕を邪魔して笑っているようにも見える。もう、何なんだアイツは!
仕方ないからしばらく観察していると、うっかり家の屋根にはかいこうせんで大穴開けちゃったような悲しそうな顔にも見えてきた。でも、カレーにぴったりの隠し味を見つけたような嬉しそうな顔と言われても納得できる。あるいは電気代の支払い用紙を捨てちゃったことに気づいたときみたいな呆然とした顔にも見えるし、はたまたお気に入りのセーターがティッシュケースくらいまで縮んじゃったようなしょんぼりした顔にも見える。
……なんて想像できてしまうくらい、何を考えているのか分からない。僕らとは違う、宇宙のルールで生きているような異様な雰囲気だ。背後にありもしないはずの惑星が浮かんでいるような気がして、目がチカチカしてきた。
もっと小憎たらしいのは、あっちは一匹じゃないってこと。イオルブとお行儀よく縦に整列して、静かに空を漂っている。お話している様子はないのに、二匹は居心地良さそうに寄り添っていた。きっと一緒にいると楽しいんだ。良いコンビだって思っているんだ。理屈なんてなくても、言葉なんてなくても、そばに居たいって思っているんだ。……デオキシスがどうとでも見える表情をしているから、都合よく解釈させてもらった。
だって分かるんだ、そういう気持ち。
誰かと一緒にいるって、そういうことだよね。
僕もさっきまでは一人じゃなかったんだ。友達と喧嘩して、ここでうじうじ落ち込んでいたんだよ。だけどデオキシスのおかげで大事なことを思い出せた。次は友達にも見せてやろう。
「ねえ、また会える?」
デオキシスに問いかけてみたけれど、何の反応もなかった。ただ胸の水晶体がオーロラみたいに光って見えるだけ。まったく、やっぱり訳が分からないや。
友達とは、分かり合えるまで話をしてみるんだ。そう決め僕は立ち上がり、浮かぶような軽い足で帰路につく。名残惜しくなって一度振り返ると、そこにはもう彼らの姿はなかった。
何色なのか誰かと話し合いたくなるような、煌びやかな空だった。