親に言われて通う塾に意味を見いだせず、僕はしばしば、抜け出しては夜の街を歩く。
この街は、建物の外装の殆どにモニターやスピーカーがついている。だから、昼よりも夜の方が色鮮やかで騒がしい。僕は明るい大通りが嫌いだ。理由もなく前を向いて歩けと言われているように感じる。だから、この街のシンボルであるタワーの、裏側まで歩いてきた。タワーの外壁は例によって機材が取り付けられているが、裏側のものは殆ど老朽化しており、電源がはいっていない。
だから暗く、人も少ない。居心地がいいと息をついたのもつかの間。前から姿勢の悪い男たちが数人、大きな声で話しながら歩いてくる。まずいと思って踵を返すが既に遅く、ガヤガヤと囲まれてしまった。僕を知るみんなは今、僕が塾にいると思っている。ここで怖い目にあっても、誰にも気づいてもらえない。すると。
すとん。
身軽な何かが、近くに降り立つ気配がした。ハッとしてそちらを振り向く。そこには1匹のポケモンがいた。人の子程の体長。街の眩さを背中に浴びてもなお鮮やかなレモンイエローの毛並み。ゼラオラだ。
男たちも同時に、ゼラオラの気配に気づいていたらしい。デッキにいるそいつに下卑た笑いを浮かべて近寄っていく。珍しいポケモンとあって捕まえる気なのかもしれない。しかしゼラオラは呑気な様子で両手をぐ、と空に向かって突きあげる。
ぐーんとお腹が伸び、そして、ふぁ…。と大きな欠伸をした。瞬間。
ビシャァン!
ゼラオラの鋭い爪から、雷が飛び散った。まるで星屑のように溢れたそれはすっかり働き方を忘れていた壊れた機材達に十二分なエネルギーを与えたらしい。場に、一斉に音と光が溢れる。
男たちは一目散に逃げていくのに、僕は動けなかった。ゼラオラは、突然辺りが明るくなり、大きな音がした事に驚いたようで、耳をピンと立ててキョロキョロと辺りを見回し、慌てていた。
呆気にとられた僕を、青く光る目が捉える。どうしようもなく無垢な青。心を奪われた僕を置いて、迅雷はあっという間に近くの機材を乗り越え、消えてしまった。
もう一度彼に会いたい。
やりたい事ができた僕は、光の溢れる場所まで、走った。