ハイクラスパック「VSTARユニバース」で新登場した、AR(アートレア)とSAR(スペシャルアートレア)のカードは、ポケモンの特徴とイラストレーターの個性で、その世界に思わず吸い込まれそうなイラストがその魅力になっている。
今回、そのイラストを描いたイラストレーターの中から、16人にインタビューを実施し、
- どういうテーマでイラストを描いたのか
- 描いたポケモンのどういったところを魅力だと捉えたか
- どんな技術的な特徴や工夫があるイラストなのか
といった内容を回答してもらった。
さまざまな魅力をもったイラストが、それぞれどういうふうに完成したのか、その秘密を大公開!
カード:ヒスイ ゾロアークVSTAR
イラストレーター:七原しえ
普段より和風の絵柄をメインにしている自分だからこそ描けるゾロアーク(ヒスイのすがた)を意識して、制作いたしました。
「月の明るい夜の冬山でゾロアーク(ヒスイのすがた)を見つけ、そっと見つめていたところ、気付かれて睨み付けられた」ようなシーンをイメージし、こちらを射すくめるキンと冷えた視線や周りを取り巻く呪いの渦などで、攻撃性、恐ろしさ、力強さなどを表現してみました。
「古い書物や掛け軸を開いた時、このような絵画が描かれていたら......」という想像から、手書きの日本画をイメージして墨筆をメインブラシにしつつ、古文書の挿絵的な雰囲気も出したかったため、古い和紙素材なども使用しています。手にした方に特別感を味わっていただけるよう、金箔テクスチャも使用し、描き込みも含め全てゴージャスに仕上げさせていただきました。
カード:リザードンVSTAR
イラストレーター:押山清高
僕は普段アニメーションを作るのが得意で、今にもポケモンが動き出しそうな瞬間やポケモンの存在感を感じさせるシチュエーションが、分かりやすく伝わるイラストを目指しました。リザードンやミュウツーといった主役以外にも、遊び心として、モジャンボやディグダなど、巻き添えをくらってしまうおっちょこちょいなポケモンも紛れ込ませました。
リザードンは、オレンジ色の体、灼熱の炎の攻撃、空を高く飛べるという特徴が魅力的に描けるよう意識しつつ、対等に空中戦ができそうなミュウツーをバトル相手に選んだり、海面からの高さが感じられる岩壁を背景にしたりしました。
目が眩むような空中戦を構図で演出するために、一見では天と地が良くわからないように地形を配置したり、爆炎や水煙、破片といったエフェクトを画面に散りばめています。
カード:ネオラントV
イラストレーター:Jerky
「海底×星空」をテーマにしました。光が届かないくらい真っ暗な海底にいるネオラントが、エサを探すためにヒレを光らせ、海底にあるものがその光に反応して色とりどりに光り、幻想的な風景が広がるということをイメージしています。
後ろでランターンがエサを横取りしようとうかがっているという、くすりと笑ってもらえるような要素も描いています。
ネオラントの周りの光は、歪な形のグラデーションで幻想的な雰囲気を表現しています。印刷用の色での光の表現は難しいので、絵の中の全ての色を、これでもかと極彩色にしました。背景はできるだけ暗く、黒に近い青を使用して光が強調されるようにしています。普段のイラストでは極端な色をあまり使用しないので、「これで大丈夫かな?」と不安になりながら描いていました(笑)
カード:ミュウ
イラストレーター:村山竜大
普段のイラストでも意識していますが、ポケモンたちが実際に生き生きと生活していることを伝えたいと思いつつ、描いています。今回のミュウのAR(アートレア)では特に、一枚絵の作品として額に飾りたくなるような仕上がりを目指しました。
幻のポケモンでありながら愛くるしい姿と、自由で奔放そうな性格がミュウの魅力だと感じているので、「きのみを食べ疲れて眠っちゃったのかな?」と思うようなワンシーンをテーマにしてみました。
一つのイラストの中にたくさんのポケモンを入れていますが、しっかりミュウに目線が行くような構図や色使いにしています。周りには、色の強くないポケモンたちを選んでみました。絵本のワンシーンに出てきそうな雰囲気を出すために、色使いを淡く鮮やかな印象にしてみました。
カード:ガラル ファイヤー
イラストレーター:カンダシンジ
「晴天に滲む邪悪な炎」というテーマをもとに、目が覚めるような青空と、ファイヤー(ガラルのすがた)の放つ禍々しいほどに強烈な色彩との対比で、その異質な存在感の表現を目指しました。「邪悪さ」の中には、「カッコよさ」や「近寄りがたさ」、「ゾワッとする感じ」など、いろいろな要素が複雑に入り混じっているようにも思えたので、見た人の感情を掻き乱すような、不穏さが漂うイラストを描こうと思いました。
構図的に意識したのは、逆さまで宙吊りにされているような不自然なポーズや、邪悪なオーラが下から上に這い上がっていくような視線の流れです。空に忽然と現れたような違和感のある体勢を全面的に押し出しました。
カード:メタモン
イラストレーター:田中未樹
いつもと違う大きな紙に絵の具で描くのは、心持ちが変わります。「牧歌的なシーン」の中に「ドキッとさせること」をメインテーマに、のびのびと描きました。描いていても没入感があるんですよ。
「ドンメルに擬態したメタモン」ということで、どっちにフォーカスすべきかと考えた時、まずはドンメルののんびりした雰囲気を大事にしたいと思いました。でも、その中にいるメタモンからは、ちょっと違う雰囲気を感じとってもらえればと思います。
可愛いメタモンの顔にしたかったので、実は、目と口についてはかなり試行錯誤しました。それと、遠くのドンメル。小さいけれど、できるだけ丁寧に描きました。皆さんに愛される一枚になったら嬉しいです。
カード:ミルタンク
イラストレーター:西田ユウ
「牧場で美味しそうな食べ物を前に、まるで"召し上がれ!"と言っているようなミルタンク」というような依頼でしたので、ミルタンクの優しさや食べ物の美味しそうな香りが、見た人に届くような一枚を目指しました。ミルタンクとの幸せなひと時、そんな気持ちになってもらえたらとても嬉しいです!
食べ物には、きっとミルタンクのミルクが使われているものもあるはず。食べるのを楽しみにしている顔を見て、ミルタンクも嬉しくて誇らしいんじゃないかと思い、そんな一瞬を表現しました。
「とにかく食べ物を美味しそうに......」と念じながら、資料とにらめっこして描きました。食べ物の温かさや、秋色に染まってきた風景の空気を感じてもらうために、黄色、オレンジ色、ピンク色などを、たくさん使っています。
カード:マナフィ
イラストレーター:秋津たいら
イラストのイメージが「水面の中に映る世界」という依頼だったので、マナフィやそのほかのポケモンが水の世界に暮らす様子をテーマにしました。
ポケモンの見た目の魅力を表現しようとしていますが、雰囲気や性格も意識しています。そういった要素で目やポーズのちょっとした印象が変わってくるので、全体としての感じ方が変わるためです。
水面の中を映すために、波紋や揺らぎの表現を入れています。イラストの色味や構図も、実際のカードの状態で見るのがいちばんいい感じになるように、映しています。
カード:コロトック
イラストレーター:塗壁
「日常の一場面を切り取ったような物語を感じさせるイラスト」というテーマで制作しました。
ポケモンの表情や所作を、最も表現すべき魅力だと捉えました。イラストの中に登場するポケモンの種類が多いため、単純な外見だけでなく、各々の表情や所作の違いを描き分けることで、よりリアリティのある魅力的な作品になるのではないかと考えました。
構図には特に気を使いました。たくさんのポケモンたちに加えて、背景となる公園の全体像が分かるような、池、花壇、ベンチ、街灯などの要素を、テキスト部分に干渉しすぎない範囲でバランスよく配置する必要があったので、かなり時間をかけてラフを制作した記憶があります。
カード:ジバコイル
イラストレーター:コマツシンヤ
AR(アートレア)のカードでは、カード全体を使ったイラストになるので、ポケモンがいる空間をより感じられるような絵にしようと心掛けました。
ジバコイルの不思議なフォルムがとても気に入っています。この形状の良さを活かせるような背景を考え、描きました。
全体の配色に気を使いました。コミカルさもありつつ少しミステリアスな感じも出したいと思った結果、このようになりました。
カード:アクロマの実験
イラストレーター:カンタロ
初めてポケカのイラストを描かせていただいたため、SAR(スペシャルアートレア)というレアリティのカードには、どういったイラストがふさわしいのか手探りの状態でした。背景や小物の情報量や説得力が重視されていると感じたので、ぱっと見で理解できることも重要ですが、時間をかけて楽しめるように細部まで描き込むことを意識しています。
アクロマは、自分の目的以外には自分のことにすら興味のないようなキャラクターであると感じたので、見た目のスマートさとは裏腹に、バランスの崩れた部分を、ある意味かわいく感じていただけるよう意識しています。
場面的には、動きのない仕事風景で地味な印象になってしまうので、それを避けるために画面全体を斜めに傾けデスクから見上げるような構図にし、動きのある印象になるようにしています。
カード:ナタネの活気
イラストレーター:イケガミヨリユキ
今回、「ナタネの活気」を担当させていただきました。植物と陽光、草ポケモンたちに囲まれて活気を養うナタネちゃんを描きたかったです。
ナタネちゃんの普段と違う一面を魅せたいとのご提案をいただいたので、いつもの元気いっぱいのイメージと違う、リラックスした表情に仕上げました。植物の中に溶け込むような草タイプのポケモンを表現したので、カードを見た人が絵の中のポケモンを探す楽しみを感じてもらえると嬉しく思います。
アナログで背景、キャラクター、手前の植物の3枚を描いて、データ化した後にレイヤーの様に重ねています。カードの名前が「ナタネの活気」だったので、ビタミンカラーも多めに使用しまして、明るい画面になるよう心掛けました。
カード:リーフィアVSTAR
イラストレーター:さすも次郎
普段のイラスト制作では、一歩引いた客観的な視点を意識するように心がけているのですが、SAR(スペシャルアートレア)ではもう少し前のめりに、好きな要素を詰め込んで楽しく自分らしいイラストにすることを意識しました。
リーフィアの見た目や性格にも通底する「落ち着いた穏やかな雰囲気」を、イラスト全体で表現したいと思いました。細かなポイントとしては、足先部分がとても好きなので、特に気合を入れて描写しています。
リーフィアや植物の柔らかさを引き立てるため、ガラスの透明表現を工夫して、質感の緩急をつけています。また、落ち着いた雰囲気のために画面全体のトーンを抑えつつ、影色などポイントを絞って微妙に彩度を上げる事で、陽が当たるような温かさを表現しました。
カード:ラティアス
イラストレーター:Teeziro
いつもはポケモンに合わせて色数を絞ることが多いのですが、今回のラティアスは、色をたくさん使って、眺めていると楽しくなるようなイラストを目指しました!
「宙を舞っていたり体にひっかかった洗濯物に興味津々かもしれない」とか、「あまり気にせず飛んでいってしまうかもしれない」など、どんなポーズや表情がラティアスらしい可愛らしさにつながるのか、考えを巡らせながら描きました。
カラフルな町並みを舞台に描きましたが、ラティアスが際立ちつつ、かといって浮いてしまわないような配色になるよう工夫しました。ラティアスの体色を引き立てる寒色系の色を洗濯物に多く使用し、背景に赤を使いすぎるとラティアスとなじみすぎてしまうので、赤と同じ暖色を多めに使い、ラティアスを背景と調和させています。
カード:チルタリス
イラストレーター:伊東亜沙子
「帰宅してドアを開けると、嬉しそうにチルタリスがお迎えしてくれる......」、そんな癒しの作品を作りたいと思い制作しました。
チルタリスのふんわり、モフモフとした可愛らしさを、毛糸やフェルトの素材を活かして表現したいと思い、特に、身体のわたぐものような部分は、モフモフの毛羽立ちを表現する編み方になっています。
チルタリスのふんわりとした可愛らしさに合わせて、ファンシーなお部屋づくりにも力を入れました。手芸作品でありながら、現実にあるお部屋にも感じてもらえるよう、編み目を活かした小物やキラキラした照明は、すべて手作りしました。小物は、編みぐるみのチルタリスと背景が馴染むようなバランスで配置しています。この作品を見た方が、ふんわりとした温かい気持ちになってもらえたら幸いです。
カード:ビーダル
イラストレーター:ア・メリカ
僕にとって「ポケモンカードゲーム」初仕事となったのが、今回のAR(アートレア)でした。カード一面に世界観やストーリー性を思い切り詰め込める点が、やりがいがあってとても楽しかったです。元々絵を描くとき、ほのぼのとしたなんでもない日常風景を、瞬間として切り取るというやり方が好みです。
周りのビッパたちがせっせと働く一方で、巣の中ですでに一仕事終えたかのようにくつろいでいるビーダルのドヤ感。その天然ぶりがビーダルっぽいし、かわいいな〜と思いながら描きました。
巣の中が断面として見えているという特殊な設定なので、説明的図解としての機能と、絵本の1ページのような物語を感じさせる空間づくりを心がけました。同系色が多かったので、なるべくにぎやかな雰囲気になるよう、色数にも気を配りました。