ポケカを始めたきっかけを教えてください。
もともと別のカードゲームをやっていたのですが、当時は公式大会が開催されているカードゲームって意外と少なかったと記憶しています。そんな中でポケカは1年に何回も大型の大会があって、毎年世界大会も開催されるということを知ったことがきっかけでした。昔から、何かに真剣に取り組んで世界大会に出てみたいというのが夢だったんです。ポケモン自体は昔から好きだったというのもあって、ポケカで世界を目指そうと決めました。
最初から世界大会が目的で始められたんですね! それならすぐに大型大会にも参加されたのでしょうか。
はい。始めたのが2016年でしたので、直近で世界を目指せる2017シーズンからチャンピオンズリーグにも参加するようになりました。初めて参加した大会でTop16、その後Top32に3回入ったことでチャンピオンシップポイントを大きく獲得でき、なんとか世界大会の出場権利を獲得できました。ただ、当時ちょうど会社で事業責任者に任命されたばかりだったこともあり、世界大会の期間にどうしても休みを取れなくなってしまったんです。もともと出場する気満々で参加の意思表明も、ホテルや飛行機の予約も済ませていたのですが、すべてキャンセルして出場を辞退することになってしまいました。忙しいなりに、なんとか休みは取れるだろうと思っていたのですが、考えが甘かったみたいです。
世界大会にこだわる理由
何かしらで世界大会に出たいという目標を掲げたのはいつからなんですか?
明確にいつから、というのはわからないですね。幼いころからそういう育てられかたをしたというのが根っこにあるんだと思います。うちの家族は結果至上主義みたいなところがあって、努力の過程とかっていうのはあまり評価されなかったんです。父は自分で事業を起こして1代で成功している人で、妹も個人でバリバリ活躍しています。ひいおじいちゃんまで遡っても、普通の会社員が僕以外にひとりもいないような家系なんです。僕自身も大学時代までプロの卓球選手を目指していたので、そういった家庭環境から「何事もやるなら徹底的に上を目指す」という考えが染みついているんだと思います。
劣勢でも粘り強く戦いたい
簡単には負けたくないから
得意な戦いかたを教えてください。
勝負なので必ずどちらか一方が負けるんですけど、僕は負けたくないんですよ。だから負けないデッキが好きです。もうちょっとかみ砕いて言うと、劣勢でも簡単には負けないデッキが好きなんです。たとえば、アルセウスVSTARのデッキは1番目にアルセウスVをバトル場に出し、エネルギーをつけられなかった場合はかなり勝率が下がると思います。ルギアVSTARのデッキも、VSTARパワーの特性「アッセンブルスター」がきちんと決まらないと一気にきつくなります。そういうデッキは好みではなくて、ルールを持つポケモンではないポケモンでじっくり戦うようなデッキが好きだし得意です。序盤にちょっとうまくいかなかったとしても、後々挽回できる方が安心して戦えます。
ルギアVSTARで日本一になったのに、じつは好きじゃないというのは意外でした。
対戦形式や勝ち抜けの条件で戦いかたは変わってくると思います。DAY1はBO1で8勝2敗が勝ち抜けの条件だったので、安定感を重視して練度に自信のあるカビゴンのデッキを使いました。DAY2は1度負けたら終わりのトーナメントで、かつBO3だったので不安定ながらパワーがもっとも高いルギアVSTARを選んだんです。じつはルギアVSTARのデッキを大会で使うのは初めてでした。これまではカビゴンとかミュウVMAXを使っていて、さらに遡るとニンフィアGXやよるのこうしんなどは、とくに手に馴染む感じがしましたね。
すべてに勝とうとするとすべてに負ける
勝つべき相手と負けていい相手を見極める
デッキ作りで大事にしていることを教えてください。
「すべてのデッキに勝てる最強のデッキ」をあえて目指さないように気を付けています。たとえばリザードンexのデッキってカビゴンにかなり不利なのですが、ミカルゲのような対策カードを採用すると勝率は上がると思います。ただカビゴンっていま使用率がだいたい3%~5%くらいとされているんですよね。その相手への勝率を上げるために、残り95%以上の相手への勝率を下げるのは効率が良くないのではないかと思います。なので僕はどのデッキに勝ちたいかを考えるとき、必ずセットでどのデッキを諦めるかも考えるようにしています。
諦めるデッキというのはどのように決めるのですか?
基本的にはSNSなどで投稿されているデッキのシェア率をチェックして、10%以下のものはほぼすべてマッチングしないものとして諦めています。ほかには構築を紹介している動画の再生数やブログのいいね数などもデータとして参照しています。
普段は緊張に弱いが、大舞台では何故か平気
プロの卓球選手を目指していたところから、なぜ会社員になったんですか?
怪我をしたというのがきっかけではあるのですが、僕は父のような人になるよりも一般的な会社員として生きる方が向いていると気づいたというのが理由としては大きいですね。そもそも昔から本当に勝負弱くて、卓球時代も練習では全日本クラスの選手にも勝てるのに、本番だと緊張しちゃってぜんぜん結果を出せなかったんです。じつはチャンピオンズリーグでも1回戦と2回戦のあいだはずっと耐え難い腹痛に耐え続けているんです。あまりにも顔が青白くなるので周囲の人たちにすごく心配されて……。
そんなに緊張していたとは。それこそ配信卓での試合は大丈夫でしたか?
逆に、普通の人が緊張するような大舞台だと緊張しなくなるんですよ。アドレナリンが出すぎているのか、もう緊張しすぎてオーバーフローしているのか分からないんですけど。ジムバトルですら緊張するのに、準決勝や決勝では落ち着いてプレイできていました。
積み重ねた努力が結実する瞬間を
これまでの人生で初めて体感した
いちばん印象に残っている大会は何ですか?
やはり「ポケモンジャパンチャンピオンシップス2024」ですね。努力が実った瞬間というのを人生で初めて体感できました。これまでのさまざまな苦労が脳裏に浮かんできて、まさしくそれらが報われた思いでした。多くの人が、何かしらの日本一を体感しないままに人生を終えると思うので、その貴重な体験を自分の人生の中で1度でも体験できたことが凄く誇らしいです。
その大会の中でとくに記憶に残った対戦について教えてください。
準決勝まではトントン拍子で勝てていたのですが、準決勝と決勝はルギアVSTARデッキの不安定さが出た苦しい試合だったので、強く印象に残っています。VSTARパワーの特性「アッセンブルスター」でアーケオスを1匹しかベンチに出せない対戦が続いたほか、決勝では50%の確率を外すシーンが4~5回あったように思います。何度も諦めそうになったんですけど、今回の大会は周囲の人たちにものすごく応援してもらっていたので、ここで僕が諦めたら皆に申し訳ないと思ってずっと耐え続けていました。その苦しい中で最後には勝つことができたという点でも達成感を強く感じる大会だったなと思います。
さまざまな条件が偶然重なった運命の出会い
ポケモンは昔から好きだったとのことですが、ポケモンとの出会いはいつでしたか?
小学生のころに引っ越しをしたのですが、ちょうどそのころに『ポケットモンスター 赤・緑』が発売されたんです。うちの両親は「子どもは外で遊ぶべき、家でゲームなどけしからん」という考えだったんですけど、引っ越したばかりでまだ友だちがいないという事情がたまたまかみ合って特別に買ってもらえたんですよ。もうそれが嬉しくて僕の中でポケモンがすごく特別な存在になりました。ポケモンという共通の話題があったおかげで、新しい友だちもたくさんできました。
その後のシリーズ作も買ってもらえましたか……?
必死でお願いし続けた甲斐あって、なんとか買ってもらえました。『ポケットモンスター 金・銀』って発表されてから発売されるまで結構期間が空いたんですけど、それが逆に説得の時間を増やしてくれたように思います。また、買ってもらえなかったときに備えてお年玉やお小遣いを貯金するようにもしていて、これも期間が空いたおかげで十分な金額を貯めることができていました。
「使ったカードはすぐ好きになっちゃうので
1枚に決めきれなくてごめんなさい……」
好きなカードを教えてください。
まずは「よるのこうしん」デッキからバチュルと時のパズル。これはシンプルにたくさん使ってお世話になったのと、初めてのチャンピオンズリーグで使って勝てたっていう思い出も込みですね。それからニンフィアGXとフレア団のしたっぱ。ニンフィアGXのデッキは当時まだSNSにデッキの情報があまりなかったので、オリジナルのデッキを作ったのですが、いざ大会に持っていくと同じタイプのデッキを使っているプレイヤーが数人いて。しかもほぼ全員が上位入賞したんです。その中にはイトウシンタロウ選手もいて、元世界チャンプと同じ答えに自力でたどり着けたというのが凄く嬉しかったのを覚えています。
そしてワザ「エレキブラスター」を持つクワガノン。僕の知る中でもっとも強いと感じているカードです。ルールを持たないポケモンで200ダメージを出せるうえ、ベンチにも攻撃できるのでボスの指令がいらない。そのうえエネルギーすらデッキに入れなくていいんです。特性「バッテリー」を持つデンヂムシが役割を代替してくれるので。空いた枠をほかのサポートやボール系のグッズに回せるので安定感が凄くて、デッキパワーは本当にすざまじかったと思います。
最後に、特性「とおせんぼ」を持つカビゴンです。今年はカビゴンに足を向けて寝られないほどお世話になりました。シティリーグのシーズン3と4でそれぞれ使ったのですが、シーズン3では準優勝以上、4では優勝しないと世界大会の権利が取れないという状況で、それぞれ準優勝、優勝と完璧な結果を出してくれました。感謝のため、毎日『ポケモンスリープ』できのみと料理をたくさん食べさせてあげています(笑)。
練習は週に1度友だちと集まるだけ
手よりも頭を動かして研究に没頭する
よく行くジムはどこですか?
ジムバトルにはほとんど行けていないのですが、自主大会には参加することがあります。とくに大会前になると毎週のように行っていて、よく参加するのは「ポケカ乱舞ッ」、「夢幻杯」、「カードラッシュCS」です。
普段はどんな練習をしているんですか?
実際に対戦をするのは週に1度、友だちと集まってするくらいです。平日はデータを調べたり、構築やプレイングを考えたりすることに時間を使っています。ポケカの大会って、そうした日頃の研究成果を各々持ち寄って披露する場であるというように捉えていて、手を動かすより頭で考えることに重きを置いています。